バイク整備の盲点「ケミカルクラック」の恐怖

今回のテーマは「ケミカルクラック」です。
これ、バイク業界でも知ってる人が少ない。

プラスチックが薬品によって割れる現象のことです。
応力がかかってる部分に潤滑油が浸透すると、脆くなり割れることがあるんです。

ボク自身もこれが原因でサイドカバーやスクリーンなどにクラックが入ったことがあります。
どれもボルト穴にクラックが入りました。

当初はオーバートルクと思っていたが、実はそうじゃなかった。
はめ合わせが悪いからつけたグリス類に原因があった。

ケミカルクラックのメカニズム

滑りを良くするはずの潤滑剤が、なぜプラスチックを壊してしまうのか。
その理由は、プラスチックの分子構造にあります。

プラスチックを拡大して見ると、長い紐のような分子が複雑に絡み合って形を作っています。
ボルト部やフック、ピンといった箇所に応力がかかると、この分子の紐がパンパンに引き伸ばされたような状況になります。

そこに潤滑油などの薬品が染み込むと、分子同士の隙間に入り込み、絡まりを解いてしまうんです。
その結果、耐えきれなくなった部分からピシッとヒビが入る。

これがケミカルクラックの正体。

NG薬品と割れやすいプラスチック

薬品のなかでも特にヤバイのが、アセトンとベンゼン。
シリコンも種類によってはよろしくない。

これらの共通点は、薬品としての効果が強いこと。
だから副作用も強いってわけです。

また、プラスチックにも耐薬品性に差があります。
非結晶性プラスチックに分類されるものがアウト!
ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリルは気をつける必要があります。

PC
ポリカーボネート
アルカリ、芳香族、エステル、一部のシリコングリス非常に透明で頑丈だが、薬品には最も敏感。シリコーンオイルの浸透でも割れるリスクがある。
PS
ポリスチレン
油脂、ガソリン、柑橘類の皮(リモネン)、シリコン添加剤分子構造が脆く、身近な油分で容易に割れる。シリコングリスも添加剤の種類によっては危険。
ABS樹脂シンナー、ベンゼン、エタノール、灯油、油脂塗装や接着、洗浄時の溶剤残りに注意。応力がかかったネジ穴周辺などは特にクラックが起きやすい。
POM
ポリアセタール
強酸、強アルカリ、酸化剤耐溶剤性は非常に高いが、酸にめっぽう弱い。酸性の洗浄剤や漂白剤などでボロボロに劣化する。
PVC
塩化ビニール
アセトン、エステル、芳香族溶剤溶剤で溶けやすい。ゴムや他の樹脂と長時間接触させると、成分が移行してベタつく「色移り」も起きる。
PP / PE
ポリエチレン等
酸化性酸、強溶剤(高温時)樹脂の中でもトップクラスの耐薬品性。常温ならほぼ無敵だが、表面に接着や塗装が乗りにくい特性がある。

パーツクリーナーもヤバイ!

ここまで、潤滑剤の話をしてますが、脱脂洗浄剤にも注意が必要!

パーツクリーナーには先ほどの表にあるアセトン、芳香族溶剤が含まれてるんです。
種類によって成分が違いますが、金属用は脱脂効果が高いので、攻撃性も高いです。

また、洗剤のなかにもアセトンやベンゼンが入ったものがあります。
でも洗車の場合は最後に水で流すので、そこまでシビアになる必要はないと思います。

バイクの要注意場所

では、具体的にどこのパーツを気にすればいいのか?

カウルのボルト穴

ABS樹脂の場合、 今回のエピソードの通り、固着防止にグリスを塗ると危険です。

ウインドスクリーン

ポリカーボネートやアクリル製が多いです。

虫汚れを落とすために強い溶剤を使うと、ボルト留めしている根元から砕けることがあります。

ヘルメットのシールド

ポリカーボネートで作られてることが多いです。

そのため、 強力な撥水剤やクリーナーを使いすぎると、可動部にクラックが入る原因になります。

プラスチックを見て具体的な素材がわかる人って少ないですよね。
なので、やはり薬品側で気をつけるべきです。

もし、ケミカルクラックが起きやすい素材(ABSやポリカ)にオイルや強い溶剤がついてしまった場合、中性洗剤で脱脂して、水で洗い流してください。

また、ネジの固着を防ぎたい場合は、樹脂に影響を与えない「シリコングリス(※成分をよく確認)」や「ネジ緩み止め剤(樹脂対応品)」を慎重に選ぶ必要があります。

最後に

ひとことで「シリコングリス」「パーツクリーナー」と言っても種類は様々。
各メーカーによって成分が異なります。

だからと言って、さきほどの一覧表を見ながら薬品を選ぶのもメンドクサイ💦

なのでプラスチックに使う場合は「低攻撃性」「樹脂OK」と書かれたものを選ぶのが手っ取り早いですね。

ケミカルクラックが入るのは、丁寧な作業の裏返しとも言えます。
でも、あと一歩、配慮が足りなかったツメの甘さでもあります。

この記事を書いた人

パーツメーカーやレースチームの黒子として多くの開発実績を持つ実力派エンジニア。
また「バイクをカッコよくする」をテーマに、プロの技術と知識をブログやSNSで惜しみなく発信中。